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平成22年度 ピッコロ舞台技術学校卒業公演
舞台美術

−Power of Stage Art 2011−


研究科27期・舞台技術学校19期「がんじがらめの垣根から」
原作:ケン・キージー「カッコーの巣の上を」より
美術プラン・製作・操作 舞台技術学校19期美術コース
 [パンフレット掲載のあらすじ]
  時代は60年代、アメリカのある精神病院。
  ここ、急性患者病棟では、それぞれ心に傷を負った女性たちが生活し、治療を受けている。
  そこへ新しく一人の患者が入ってきた。前科に加えて、殺人未遂の裁判で精神鑑定が必要と診断されたのだ。
  病院に反発しながらも、他の患者たちと交流するうちに、ある現実と直面して…。
崩壊前 崩壊後
基本舞台(開演前を含む) 後方のパネルが倒れ、コードを振り落とし(ラストシーン)
 決して明るくも温かくもないものの、どこか居心地が良く、そこから出て行くことがままならない「精神病院」という「カッコーの巣」を、3種類のベージュで塗られた網パネルによって表現。その形状は、主要登場人物であるチーフの心象風景ともオーバーラップするよう、どこか山並みを思わせる形となっている。上手側には、袖奥から延びてくるスロープがあり、この場面が地下室のような一種の閉鎖された空間であることを暗示するとともに、上手舞台前に配置された巻きコードと相まって、舞台に緊張感を与えている。
 また、上手・下手の網パネルを立てるために必要な人形立てについてもデザイン化。舞台セットとしての強度・安全性を確保するとともに、単調・平板になりがちなセットにアクセントを与えている。
 作品で重要な役割を果たす「分電盤」とそこから舞台上方へと延びるコードにより、この場が大きな組織(社会)により管理されているという状況を暗示。下手側の吊り点には網パネルで使用したものと同じ網を巻いており、ラストシーン、振り落とされたコードとこの吊り点をチーフが乗り越えていくことにより、「がんじがらめの垣根に囲われたカッコーの巣から一羽の鳥が飛び立っていく」という、象徴的な意味も与えている。
ムーブメント 娯楽室 全体
 上演風景(きっかけあわせ時に撮影したため、一部出演者が違っています)
下手・から人形 分電盤 下手・スロープとコード
下手 3台のから人形 舞台奥 コードと分電盤 上手 スロープと巻きコード

ロビー展示 Power of Stage Art 2011 夢舞台
企画・製作 舞台技術学校19期美術コース(協力:照明コース)
ロビー入口 扉の間
 今年度もロビー展示を実施。今年のサブタイトルは「夢舞台」。
 昨年度の反省を踏まえ、各種実習実施時に「卒業公演で飾れそうなものはとっておく」こととした。「奈落が狭くなる」という某所からの苦情もあったものの、先生方や事務の方のご努力もあり、なんとか確保。そうやって生き残った、合同発表会のメイン道具である「省三の部屋の扉」をロビーに持ち込んで展示している。
 なお、今回は「最後にパネルが倒れ、コードが振り落とされる」という大きな仕掛けがあったため、卒業公演にかかる平面図や道具帳などはあえて一切の展示を行っていない(平面図等は合同発表会関係のみ)。
 1扉と2扉の間の第2展示は、「たたき入門」で製作し「舞台背景画基礎実習」で色を塗ったパネルを並べ、その中に「軽音楽ライブ実習」で使ったキラキラ棒(?)と白色のケコミを配置。合同発表会時に余った発泡スチロールボードで切り文字を作るなど、物質的(?)にもまさに1年間の集大成となる展示であった。
(なお、今年度は、前述の扉や各自の模型・白色ケコミなどに、照明コースとその先生方、そしてホール付きの照明さんなどが協力して、綺麗な照明を入れてくださいました。特に、第2展示の変化するLEDはとても印象的。こんな機材が簡単に出てくるピッコロシアターというのはやはりすごいところですね。本当にありがとうございました&来年度以降のエスカレート、期待しています!)
決定プラン模型 知る人ぞ知るエンドマーク LED
デザイン原案(写真)と決定プラン 楽日終了後に"End"を掲示 LEDが入ると印象が全く違う

(参考) ピッコロ演劇学校本科28期生「スキップ」
美術:板坂晋治 美術助手:渡辺舞
 [パンフレット掲載のあらすじ]
  目が覚めると42歳になっていた…!
  ついさっきまで高校二年生、17歳だったのに。
  昨日まであれこれ思い描いていた未来。
  無限にあるはずだったその扉は只一つになっていた。
  失われた時間に戸惑いながらも、前を向いて歩いていこうとする真理子。
  自分の心は、今までの選択は、きっと自分が信じたものだから…。
前田綾ナース かなり重かった箱馬 エレベーターになったり
 [いそべ感想]
 卒業公演顔合わせ時から「役者が転換していろいろな場面ができあがっていく舞台を」との指示が演出家からあり、どうなるのかなあと思っていました。この作品、自宅だの、学校だの、体育館だの、講堂だの、いろいろと表現しなければいけない場面が多いのです。そういう課題を、板坂美術の真骨頂である「ピシッと通った縦の線」を主軸にして、高さの違う上下(かみしも)パネルと、長い階段、そして9×9ワゴンと箱馬などで、いとも軽々と解決しています。特筆すべきはパネルの美しい造形。写真ではグレーに見える部分に透明なプラスチックのパイプを何十本と使っています。この仕掛けが、単に色を塗っただけでは出ない、独特の奥行きと幻想性をセットに与えているのです。
 美術家さん・美術助手さん・道具製作者さんなどの高い能力は当然ですが、このセットが良かったのはやはりこれを本科の出演者たちが操作する、そこにあった気もします。そういう意味では、「役者がいなければ意味のない、役者とともに何かを表現する舞台装置」のもう一つの解答なのかなとも思いました。関係者の皆さん、本当にお疲れさまでした。

→ 去年の卒業公演 Power of Stage Art 2010 へ



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