首都機能代行都市にどのような機能が必要なのか、ということは時代ともに変わってくる。筑波建設当時はちょうど東西冷戦まっただ中であった。当時想定されていた戦争というのは、都市を全面的に破壊するような核戦争。いきおい筑波の建物は無骨だが核戦争に耐えられるようなものとなった。また核攻撃を防ぐのには地下が有効であると考えられたため、筑波では地下が非常に有効活用された。筑波大の地下通路もいざというときには核シェルターとしても使えるようになっているし、学園都市の中心部にも地下通路が張り巡らされている。そのために筑波の某百貨店は食品売り場が1階にあって地下には入れないのである。食品売り場が1階というデパートは全国的にみてもめずらしいし、冷房効率や衛生上も本当はよくない。そのようなリスクを背負ってまでも地下を使わせないのには、ちゃんと理由があるのである。
その後、スカッドミサイルや都市間弾道ミサイルなど、どちらかといえばピンポイントの攻撃が問題となってきた。そのためにエキスポセンターに弾道ミサイルH2を装備し、またあらゆるところから飛行機が発着できるように筑波の道を舗装しなおし、また道幅を広げている。ちょうど筑波万博の時代と重なっていたため、道の拡張などは万博のためと思われているのだが、これはあくまでもカモフラージュであった。学園線と西大通りの交叉点は渋滞の名所として有名だが、万博の時この交叉点は立体交差になっていて渋滞もなかった。ところが、わざわざ高いお金を出してこの立体交差を撤去したのである。なぜ立体交差をそのまま残さなかったのかということはなぞであったが、これは滑走路として使うときにじゃまになるからに他ならないのである。またエキスポセンターのロケットもハリボテをいうことになっているが、実はバリバリ現役の弾道ミサイル。見る人が見れば、本物ということはすぐに分かる。むしろまざまざと表に飾ることによって、筑波に攻めてこようとする敵を威嚇しているのである。
そして現在は情報化の時代である。もちろん、筑波は情報化という点でもぬかりない。筑波研究学園都市のほとんどの家庭にはACCSと言う名前のケーブルテレビが引かれている。このケーブルテレビ、もともとは学園地区に高いビルが建つことによる難視聴対策と言うことで作られたのである。ところが実際のところ高いビルというのはそれほどたっていないし、高いビルがないところにまでこのケーブルテレビが、それも非常に安価で引かれている。べつに特段ケーブルテレビでなくては困ることはないのである。すなわち、筑波にケーブルテレビを引いたのは、有事の際に筑波地区の情報を全て操作することができるからであろう。テレビ放送なども一度全て検閲をしてから流すことができるのである。ACCSの本部が「学園都市の大地主」「学園都市の陰の支配者」といわれる住宅・都市整備公団つくば開発局の中にあるのも、その役割の大きいことを示している。
ACCSは学園都市内の情報操作であったが、学園都市外への情報発信についても怠ってはいない。とくに近年のインターネットの普及については非常に早い時期から整備が行われてきた。その中でもとくに白羽の矢がたったのが「高エネルギー物理学研究所」である。前述の通りここには最終兵器が隠されているため、この研究所はたとえ学園都市内まで敵が攻めてきたとしても最後の最後まで死守されるであろう重要な拠点である。そこで、ここを情報化しておけば最後の最後まで世界中に向けて情報を発信し続けることができるし、各地にいるであろうゲリラ部隊と連絡を取り合うこともできるのである。そのため、ここには非常に早い時期にインターネットが引かれた。またあまり知られていないが、日本で一番初めにホームページ(httpd)を立ち上げたのは別に情報科学の専門家集団でもないこの高エネルギー物理学研究所なのである。最新の技術を常に取り入れて、情報化に励んでいるのがよく分かる出来事である。
現在、日本国内のアドレスは、human.tsukuba.ac.jpとかnih.go.jpのように、"ac(学術機関)""go(政府機関)""co(会社など)"のような属性ごとのアドレスになっている。ところがこのルールに則らない組織が2つある。それは"ntt.jp"と"kek.jp"である。日本最大の情報通信業者であるNTTが特殊なアドレスを持っているのは何となく理解できるし、今後は"ntt.co.jp"に変えてゆく予定だと言う。ところが高エネルギー物理学研究所は、べつに日本最大の大研究所という訳でもないのにいまだに"kek.jp"を使い、今後も変更の予定はないという。このあたりに、高エネルギー物理学研究所がいかに日本のインターネットにおいて重要なのか、もっと言ってしまえば、首都機能代行都市の情報発信基地としての高エネルギー物理学研究所の重要性がかいま見える気がするのである。