第十の謎

なぜ、がまの置物に見張られているのか?


 最近のトレンドは「ダウンサイジング」である。大きな政府ではなく小さな政府をめざし、中央集権ではなく地方分権をめざし、大企業はスリム化をめざしてリストラをする。なるべく小さな組織が、それぞれ有機的に動くことが望まれているのである。
 ところが、筑波研究学園都市が計画されたのは石油ショックが始まる前。大きいことはいいことだ、なるべくいろんな機能を集中させて効率よくといった長大重厚産業型の街作りが行われたのである。すなわち、繁華街はこのあたりに、研究所はこのあたりに、住宅街はこのあたりに、といった具合に機能毎に地区を分けた街作りをしたのである。確かにこのような作り方は効率的であるし、騒音問題などが生じる可能性も少なく、整然とした街ができる。しかしながら、人間が生活するというのは、そううまくいかないものである。近くにスーパーがなくて不便、ふらっと食事にいくのも大変、飲み会には車でないと行けない(苦笑)など、いろいろな問題が生じてくるのである。さらにこのように特定の地区に機能を集中させると、ある一地区をやられただけで研究学園都市全体が機能しなくなると言う「首都機能代行都市」としては致命的な欠陥が出てくるのである。
 そのため、研究所・工場・繁華街・住宅地、そして首都機能代行都市としての防衛施設が全て備わった、言うならば「ミニ・筑波研究学園都市」的な地区を新たに作る必要に迫られたのである。そして、それを作るところとして選ばれたのが、今までも警備が薄いと問題になっていた筑波大学東方の地「柴崎」、現在の「テクノパーク桜」である。

 このテクノパーク桜には筑波の様々なエッセンスが詰まっている。まず研究所だが、金属材料研究所の支所が一番西側に建てられている。本所の方にもまだまだ建物を建てる余地があるし、何もわざわざこのような遠いところに作っても連絡がめんどくさいだけである。時代は行政のスリム化・効率化の時代であり、わざわざ新しい研究所を別の場所に建てるのはあまりにも奇妙である。つまり、ここに建てたのは純粋に研究のためではなく、やはり桜に研究所をおいておきたいという「国策」によるものなのであろう。
 また、製薬会社や機械メーカーの工場も桜にはある。本来工場というのは騒音や公害の問題などもあり、住宅地には作らないものである。しかしながら、桜はミニ首都機能代行都市であるので平時に多少の不便があるのは仕方ない。製薬会社を持ってきたのは野戦病院として、あるいは生物・化学兵器の生産貯蔵に使うため、機械メーカーは戦車や大砲などの修理を行うためであろう。さらに数社の進出が予定されているそうである。これらの会社もやはり何らかの「第二の目的」があるに違いなく、今後の進出企業が注目される。
 筑波の特徴として、大学やその周囲のアパート街もあげられる。学生はいざとなれば追い出せるし、また兵士としても利用できることから、このミニ首都機能代行都市・桜にはもってこいの人々だったのである。ところが、当然ながらほとんどのアパートは新築で家賃も高かったため、ここに住むのはほとんどが女の子となってしまった。これは兵士の確保という点からは多少の誤算である。しかし、現在の兵器というのはハイテク化が進み、女性でもさほど困難なく扱えるものが多い。また、昔から軍隊には必ず女性が必要であった。たとえば、賄いさんとか、従軍看護婦とか、...(以下、検閲)。ともあれ、女性が多いことはさほど大きな問題ではない。
 繁華街としては地元のスーパーであるまるもスーパーを中心に、酒屋・ホームセンター・ドラッグストアなど数多くの店が軒を並べている。来年にはカスミスーパーもできるということである。ほとんど人が住んでない街にこれほどのショッピング街は多少異様ではある。さらに、桜にはローソン・セブンイレブン・スパーなど様々な資本のコンビニが存在する。これ程までたくさんの店があるという事は、有事の際にはここにたくさんの人が集結するということを意味しているのであろう。またここを流通の拠点にして有事の際の補給を行うことも考えられる。そのように重要な拠点なのである。
 では、首都機能代行都市としての防衛施設はどこにあるのだろうか?それは最南端の「反町の森公園」である。ここは造成中もかなりはやい時期にできあがっていた。それにも関わらず、かなりの期間、立入禁止だったのである。また、いまだに裏口側から入ろうとすると「関係者以外立入禁止 住宅・都市整備公団つくば開発局」という看板が建っている。いかにここに近づいて欲しくないかが良く分かる。公園のほとんどは池である。その池を囲むように色々な建造物がある。中途半端な高さの展望台が、それも2基横並び。あまりにも立派なポンプ場の建物。日本風の佇まいを見せる門や公衆便所。昔からある神社。あまりに無機的な遊具。この公園の不思議な雰囲気は何とも形容しがたい。一つ一つの怪しさもさることながら、全体として受ける印象が余りにも不気味なのである。そして、この公園の地下に防衛施設があるのである。あのポンプ場が入り口であり、その施設の大部分は地下深くに作られている。展望台は別に展望のために作られたのではなく、通信塔か監視塔の役割を果たしているのであろう。施設の上に池があるのは盗聴や電波傍受を防ぐためであると思われる。(この施設は以前は平砂プール下にあったといわれるが、真偽のほどは定かではない。)

 テクノパーク桜には他の研究学園都市には見られない様々な特徴があるのは、いままで述べてきたとおりである。しかし、もう一つある。それは「旧来からの風習を大切にする」ということである。筑波の町はあまりに科学の力だけで作ろうとしたため、様々な弊害が出てしまった。そのために太古の昔からの筑波の守り神を担ぎ出したのである。筑波といえば、やはりがま。そのためがまの置物を町の至る所にたてて、町の守り神としたのである。また、防衛本部の上には神社を作って必勝を祈願している。しかしながら、それを本心から信じることができないのも現代人の悪いところで、実はあのがまの中には監視カメラや隠しマイクが仕込まれているのである。慣習と科学の筑波における奇妙な関係...それを私たちはあのがまの置物に見ることができるのである。



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これはフィクションです。おそらくフィクションだと思うのですが...。
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