第八の謎

なぜ、筑波の道はまっすぐなのか?


 筑波に来た人がまず驚くのは、その田舎なところと道があまりにも立派なところである。
 筑波の街は東側の東大通り、西側の西大通りに挟まれた区画であるといっても良い。片側2車線(場所によっては片側3車線)の道路がすっとまっすぐに伸びている。横を見れば最先端の研究をしてそうな研究所群。遥か北には筑波山。街路樹に囲まれ、目障りな電線や電柱も少ない。東大通りは日本の道100選にも選ばれているが、なるほど納得できる道なのである。
 しかし、このような道も単にきれいな道を作りたいという建築家の意見とか、住民に優しい都市計画の結果とかでこうなったのではない。あくまでも首都機能代行都市としての必要性に答えるために作られているのである。

 いうまでもないことだが筑波の道はそのほとんどが滑走路として使えるようになっている。特に重要なのは西大通りの広くなった部分と、西大通りから西側の土浦学園線である。ここがメイン滑走路として使われるのである。そのため、いまだにこの部分には陸橋を作ることができないのである。司令部は松代におかれ、ここで臨時大本営が戦闘の指揮を執る。壊れた飛行機などは西大通りから南大通りへと持っていって、いま電気屋街と言われているところで修理されることになっている。筑波のような田舎でなぜあれほどたくさんの電気屋がやってゆけるのか不思議であったが、これも各店がいざというときに飛行機を修理できる技術を持っていて、国から多額の援助がでているからである。
 南方の守りは気象研究所のレーダーである。このレーダー、実は以前東京にいる人を傷つけてしまったというほどの威力を持つ。この「事故」があって以来、東京の方は向かないようレーダーは改修されたとのことだが、これはとりもなおさずまた直せば東京方面から来る敵を撃墜できるということを示しているのである。さらに南方には生物系の研究所が多い。P3やP4の実験室で危険な病原菌などを扱っているところも多く、たとえばエボラ熱やマースブルグ病の病原菌などを兵器として使うことも当然検討されるだろう。
 さらに衛星を使って地上にいる敵を攻撃することも考えられる。宇宙開発事業団は研究所が筑波にあり、そこでは衛星やロケットの管制を行っている。打ち上げるのはほとんどが種子島であるので、なぜ種子島に管制室を作らないのかということは若干不思議でもある。現在は打ち上げ成功後しばらくしてからわざわざ管制を筑波に移すというめんどくさいことをしている。この理由も明白である。いざというとき筑波だけは守るために、筑波の中で衛星などを操作する必要性があったのである。文字どおりの空からの攻撃には敵も面食らうであろう。
 いざ、筑波大の中に入ってもこれを制圧することはなかなかに難しい。なんと言っても最大の難所は「南大門」である。体育専門学群と芸術専門学群の建物であるが、まるで門のような形をしているため、「南大門」と呼ばれている。しかし、実際白昼戦の時にはこの建物が文字どおり筑波大の南の守りとなるのである。体専の屈強な男たち・女たちが集められ、この門を死守することであろう。さらに南の宿舎地区では様々なレジスタンス活動が繰り広げられるに違いない。宿舎も非常に入り組んだ作りとなっているが、これも抵抗運動をしやすいようにパリの下町をモデルに造られたものだからである。
 そして、こうして時間を稼いでいるうちに筑波首都機能代行都市の最終兵器を準備するのである。

 筑波の最終兵器、それは高エネルギー物理学研究所のもつ大加速器である。周回が3kmとも言われる大加速器に日本中の電力を集め、それを陽電子砲を使って敵にぶつけてやるのである。実は筑波山の裏側には、「新筑波線」という日本有数の大容量を誇る電線が通っている。これは福島の原発などで作った電気を首都圏に運ぶためのものであるが、これを中断してしまって、さらに日本中すべての電気を高エネ研の大加速器に集めるのである。東海村の原発、新潟の柏崎原発、福井県の原発、果ては北海道の泊原発まで最大出力にして、その電気を筑波へと送り込み、この最後の一撃にかけるのである。発射地点はおそらく、筑波山山頂であろう。
 日本国が生き残れるか否か。起死回生の一撃、肉を切らせて骨をたつことができるのか?少なくとも、それを試す日が来ることはないことを望むのではあるが...。

 



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これはフィクションです。おそらくフィクションだと思うのですが...。
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