第三の謎

なぜ、公務員が多いのか?


 筑波は公務員の多い町である。というのも町の中心部は、一部の商業施設をのぞいてほとんどが国立の研究所や施設、公務員住宅だからである。近年、民間の研究所もかなり増えてきたが、そのような民間の施設は研究学園都市の中心部からはかなり離れたところにある。
 民間との協力という点からは、なにもここまで国立研究機関と民間研究機関を分離してしまう必要はない。むしろ、この距離は官民の交流を阻害してしまっているとさえいえる。やはり、この官民の分離も、筑波が単なる研究学園都市として建設されたわけではないことの傍証なのであろう。
 筑波が首都機能代行都市である、ということは、筑波にすんでいれば遅かれ早かれ肌で感じられてしまうことである。ただ、それをあちこちでべらべらとしゃべられてしまっては、国家機密もなにもあったものではない。そこで国としてはできるだけ口の堅い、また自分が操ることのできる人間を筑波におくことにしたのである。その条件に最も合うのは、国が雇っている人間、つまり公務員である。実は最近まで、筑波地区の公務員には「筑波手当」という特別手当が給料の約10%も支払われていた。これは一種の「口止め料」といえなくもない。逆に、筑波の秘密を他人に漏らさないように、人事や昇格の点で脅しをかけていた。つまり、アメとムチの政策で筑波の公務員を操っていたのである。
 もちろん、採用の時点から選別は始まっている。できるだけ社会的な事柄や政治的な事柄に興味がない、けれども特定の技術については非常に優秀な人を集めることが、首都機能代行都市には必要だった。そこで、理系の研究者が集まる町にしたのである。つまり、「首都機能代行都市」が主で、「研究学園都市」は後からついてきた、ともいえなくはない。

 公務員以外の民間人も、できるだけノンポリで、しかし知能的には優秀な人間が集めるようにしている。その最たるものが、筑波大学の推薦制度であった。開学当時、国立大で推薦制度を取り入れている大学はほとんどなかった。それにも関わらず、筑波大は定員の25-30%を推薦でとるようにしたのである。これは、地方のノンポリで、純朴で、何も疑うことなど知らないような学生だけを筑波に集めたいという国の意向の現れである。推薦入学者の存在は、筑波大での学生紛争を押さえるのに大きな役割を果たしたようである。
 さらにいうと、スーパーの店員からタクシーの運転手まで、実は国の基準によって選別されているのである。スーパーを例に出すと、筑波はこんなに小さな町なのに、様々な資本のスーパーがある。これらの親会社が、首都機能代行都市を筑波に作るという政府の方針に秘密裏に賛成して、とりあえず赤字覚悟で店を出店しているのである。こうやって国に忠誠を誓っておくことが、その後の許認可などで有利に働くことはいうまでもない。そういえば、ある財閥がどう見たって筑波には必要ないようなビルを中心街に建てているが、あれも必要性があったからというよりは、むしろ国に忠誠を示しているといったほうがよいだろう。そして、そこで働く従業員も特に精選しているのである。

 ともあれ、筑波は国によって選ばれた「選良が住む町」なのである。



第四の謎へ

タイトルページへ


これはフィクションです。おそらくフィクションだと思うのですが...。
Copyright with ISOBE Satoshi(1996)