番外編

いそべ版・あばとーん


 筑波を舞台にした名作と名高い「至高聖所(アバトーン)」。筑波大学の卒業生・松村栄子さんが書いた短編小説で、第106回芥川賞を受賞しています。(福武書店→ベネッセコーポレーションより発売)
 とりあえず、あらすじだけどうぞ。

《あらすじ》

 さつき(でも11月うまれ)は第一学群自然学類の女の子。友達と一緒に食事を作って食べたり、研究所でバイトしたり、同じ学類の男の子とつきあったりと、文字どおり筑波大生活をエンジョイしている。でも、そんな彼女にも心配事がただ一つ。それは一の矢宿舎2人部屋で同室の真穂が学内最怠とも言われる捨学(社会学類)の子だったのです...。彼女ときたら入学早々さぼってるし、学校にも行かずに寝てるし、そうかと思えば全代会とか老人問題を考える会とか、劇団竹蜻蛉とかいかにもあやしげなサークルに入ってるし、自分は実験とかで大変なのに部屋で騒ぐし...。長時間、惰眠をむさぼり続ける真穂をみて、つい殺意を抱いてしまったさつきであった。

 2学期になって、筑波大生よろしく、彼氏との間にすきま風が吹いてきた。なんと彼氏は、これまた筑波大生よろしく、新興宗教にはまってしまったのだった。同室の真穂も相変わらずだし...。人が信じられなくなったさつきは、鉱物の冷たさにどんどん引かれてゆく。筑波というのはなぜか石の似合う街なのである。しかしながら、鉱物研究会でもむさくるしい年上の先輩に誘惑されてしまう。いくら女性が少なく、3S政策(Study, Sports, Sex)を掲げる筑波大学といえあんまりではないかと、だんだん全てが嫌になってきたさつきであった。

 学園祭前になって、同室の真穂が毎週義父のもとに帰っていることを知る。母親は死んでしまっているので、週末の夜は血のつながらない男女が一つ屋根の下で眠っていることになる。ついつい真穂のことを「不潔!」と思ってしまう、彼氏はいるもののまだ処女のさつきであった。

 学園祭がやってきた。しかしながら、全く盛り上がらない学園祭をみて、やはりこの大学は救いようがないとさつきは感じる。さらに、同室の真穂が以前さつきを狙っていた鉱物研究会のむさくるしい先輩を狙っていたことを知り、やはり筑波大学というのは単なるガールハント・ボーイハントの場でしかないのかと悟ってしまう。さつきはすっかり筑波や筑波大生が嫌になって、天久保にある彼氏のアパートに別れ話を持ちかけに行く。ところが、なんとそこであんな事やこんな事をされてしまう。しかし彼には全くテクニックがなく、彼が何を言い何をしてもさつきは全く感じることが出来なかった。やっぱり筑波大の男はダメねと思うさつきであった。

 どうしようもない男どもと、そんなのとつきあっていた自分に対する嫌悪感で、さつきはもうぼろぼろであった。天久保から、体芸棟を抜け、大学会館を抜け、なんとか中央図書館まで来たものの、もうさつきにはそれ以上歩く元気はなかった。さつきは中央図書館の高い天井の下で、崩れるように横たわっていった。「もう、疲れたよ...パトラッシュ...」そんな彼女を図書館の切れかけた電球がゆっくりと照らしていた...。

(完)




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これはフィクションです。おそらくフィクションだと思うのですが...。
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